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神奈川県立総合教育センター 学校経営研修ノート
平成16年度 新任教頭研修講座(小・中学校)
教職員のメンタルヘルス
職場の健康管理―心身の健康保持増進のために―
 

平成17年1月18、20、25、27日、2月1日実施
講師 元神奈川県立総合教育センター教育指導員

 ねらい
職場における教職員の心身の健康の大切さを理解し、その増進を図る方法を身につける。
1. 健康の考え方
2. 疾病の予防三段階
3. 職場のメンタルヘルス

 1.健康の考え方

 現代の健康についての考え方として、ヘルスプロモーションの概念が取り入れられています。WHOが1986年のオタワ憲章で発表したもので、これを受けて文部科学省の保健体育審議会答申や、厚生労働省の「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」指針が出されています。 
ヘルスプロモーション

「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」

 健康は人間が生きて自己実現を図るための手段です。生きるための土台作りとして環境の改善などが政策とされますが、個々人が「真の自由と幸福」に到達するためには一人一人の心身のパワーアップが必要です。それは、坂道を「健康」という大きな玉を転がしながら登っていくようなものです。個々のライフスタイルの確立が大切で、これを考えていくことはまさに生きる力といってよいでしょう。

「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」(厚生労働省)

 健康を実現することは、一人一人が主体的に取り組む課題である。
 自分の健康のあり方を知り、達成するための方法を選択し、生涯を通して健康づくりの『設計』を行い、これに基づいて自分の健康を実現する過程が必要。

 2.疾病の予防三段階
 
 疾病の予防については、ヘルスプロモーションの考え方では一次予防に重点を置きます。すなわち、各人が自分のライフスタイルを整え、環境を改善していくことで、疾病の発生を未然に防ごうというものです。
一次予防 ・ 個人の生活習慣(運動、休養、栄養、禁煙、適量の飲酒)
・ 環境(職場、環境)
・ 疾病の予防(感染症、母子保健)
二次予防 早期発見、早期治療
三次予防 リハビリテーション、重症化の防止
生活習慣病を予防するために(「健康日本21」より) 
  • 運動は「楽しむ、無理をしない」を心がけましょう。歩くのが一番です。
    • 1日に、成人男性では9200歩、成人女性では8300歩が目標値です。
  • 栄養・休養については、バランスのよい食事と、朝気持ちよく目覚めること、食事がおいしく食べられることを目指します。1日30分、自分だけの癒しの時間を持ちましょう。
  • 適正体重を保ちましょう。
    • 肥満の判定〜BMI(Body Mass Index)を用いて判定。
      • BMI指数=体重(kg)÷身長(m)2 (日本肥満学会 肥満の判定基準より)
      • BMI=22を標準【成人の場合】
        BMI 判定
        18.5未満 やせ
        18.5以上25.0未満 ふつう
        25.0以上 肥満
  • 禁煙は是非、実行してください。
  • 飲酒は「節度ある適度な飲酒」ならよいでしょう。(メンタル部分での発散になる)
    • 「節度ある適度な飲酒」としては、1日平均純アルコールで約20g程度
      (ビールなら中瓶1本500ml)               
職場の健康管理のために  
  • 健康診断に係わる法規
    • 学校保健法(設置者)
    • 労働安全衛生法(事業者)
    • 結核予防法・・・X線撮影は特例を除き教員に義務付けられています。
    • 感染症予防法・・・学校では『伝染病予防』として扱います。
    • 地域保健法・・・保健所と連携をとります。
  • 職場の規模に応じて次のものを置かなければなりません。(労働安全衛生法)
    • 衛生管理者
    • 衛生推進者
    • 安全衛生委員会
    • 産業医
 3.職場のメンタルヘルス

メンタルヘルスとは・・・次の二面から考えます。
  • こころの病気
    •  脳神経の変調による「病気」です。神経間をつなぐ神経伝達物質のアンバランスによるもので、医療で治療しなければなりません。

  • こころの健康増進
    •  こころをより健康に保ち、生き甲斐を増進しようというもので、ヘルスプロモーションの目的でもあります。人と人との温かい関係によって増進されます。心のぬくもりが人間のパワーアップになるのです。

教職員のメンタルヘルスの特徴
 教職員自身のメンタルヘルスは一般の労働者のメンタルヘルスと違う特徴があります。その違いから、教職員のメンタルヘルスがたいへん重要になっています。
  • 教職員の仕事の特徴を考えてみます。
    • 子どもの人間形成に携わる仕事である

      •  これは『子どもの人格の完成を目指す』というように、きわめて難しい仕事であり、また精神作用の仕事なので、やってもやっても達成感が得られないということがあります。これでおしまい、というわけにはなかなかいきません。

    • 人間関係が複雑な職場である

  • 教職員休職者の50%は精神性疾患 

     文部科学省がまとめた教員の病気休職者数は年々増えており、
    資料(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/12/04121003/011.htm)によると、平成14年度には5,303人、そのうち精神性疾患による休職者数の割合は50.7%と、この年ついに50%を超えました。平成15年度にはさらに増え、病気休養者数6,017人、うち精神性疾患による休職者数の割合は53.1%に達しました(昭和50年代は10%台でした)。
     これは「休職者」で、療養休暇や年休で処理をしている人は含まれていませんから、氷山の一角で、実際の患者数はもっとずっと多いと考えられます。これは他の労働者と比べると際立って高い数字です。
     精神障害の内容には次のようなものがありますが。

    うつ病、うつ状態、統合失調症、躁病、躁状態、躁うつ病、神経症、反応性うつ病(適応障害)


     先ほど申し上げたような、教職員の仕事の特徴から、「児童・生徒指導」「職場の人間関係」などに悩み、これがストレスとなって、精神性疾患を引き起こしていると考えられます。まず、ここに着目して状況把握と改善を試みましょう。学校運営上このことを是非、頭の中に入れておいていただきたいと思います。
      それから、メンタル面で、子ども理解にとっても、われわれ自身にとっても、大変重要なこととして、家族と家庭の問題があります。この家族と家庭の概念(形態や機能)が、今、変わってきているのです。以前は「家庭」=「家族」だったのですが、今は、「家族」と「家庭」の概念にズレが生じています。
     家族が家庭を構成しているもののほかに、家族ではあっても家庭を構成しないもの(長期別居家族や、離婚後の親子・きょうだいなど)、家族ではないが家庭を構成しているもの(里親、同居している親のパートナー、長期に生活を共にしている者同士など)があります。家庭・家族が憩いの場や情緒の安定の場、精神発達の場ではなくなっていることが多くなっています。したがって、家庭・家族のイメージが変化していることを認識し、福祉・医療・教育についての問題を深めながら解決に当たっていかなければなりません。

健康の保持増進のために
精神疾患の兆候 【一般症状】
身体面 高血圧、頭痛、吐き気、胃腸障害
感情面 不安、憂うつ、いらいら、怒りっぽい、人を疑う
心理面 集中力低下、思考混乱、気力低下、心配性
行動面 引きこもり、睡眠障害、衣服の乱れ、不自然な行動、
摂食障害、飲酒喫煙が増える、遅刻・欠勤
 このような現象に気づいていくことが必要です。(自分で気づく、周囲が気づく)

 身体面と感情面は相関関係にあります。
 心理面ではまず集中力低下が起こります。それから、「ちょっとおかしなことを言う、おかしい」というような思考の混乱が出てきます。
 行動面が一番よく分かります。中でも一番わかりやすいのは、洋服や身につけているものです。子どもたちもそうですが、大人も衣服の乱れで大体わかります。何かあったときには、おやっと思う変化、いつもと違う何かがあるのです。私どもはたいてい衣服で最初に気づきます。
それと、あれっと思うような不自然な行動や不自然な持ち物、これでわかります。
 
 こういうことをよく観察します。観察はその場だけで判断してはいけません。持続性がどれだけあるかで対応を考えます。

 かつて私が保健師になるための講義を受けたとき、私がたいへん尊敬している先生が「看護は観察で始まり、観察で終わる」、「観察というのは心の眼で観ることだ」とおっしゃいました。何十年も前のことですが、忘れられない言葉です。私は養護教諭として子どもを観る際、小さなノートを持っていて、つぶさに観察し記録し、その積み重ねの中から(例外もありますが)どうしようか考えました。
 教頭職には、自分自身も含めて職場の教職員の観察をしていくことが求められます。
職場における対策(管理職として)
  • 何かあったときにはまず現実を直視します。気づきです。
     
    •  そこで気づいたことが、そのときだけのものか持続性があるのか、慎重に観察します。持続性があれば、相談や受診をするようにします。気づいても、それは性格ではないか、個性ではないかと見られることもあり、判断が非常に難しいので、慎重に継続的に観察することが大事です。
       自身については、自分と徹底的に向き合ってみると、必ず何か「ああ、そうだったのか」と気づくことがあります。このときだれか自分に向き合ってくれる第三者が必要です。できれば同じ職場内でなく、全然違う立場の人と話す機会が持てれば、違う見方ができてとても有効です。
  • その人のために、学校運営の改善をします。
    •  ストレス要因をできるだけ軽減します。「がんばれ」などと励ますのはよくないといわれています。それよりそっと校務を軽減する手立てを打ちます。表立って「やらなくていい」と言うとよけいに重症化しますから、さりげなくやることが大事です。
    •  学校の職場は特に人間関係、チームワークが大切です。チームで支援をしていくということです。

  • 研修会等で互いに学びあっていくことも大切です。
    •  ポイント:自己流でやり過ごさないこと

    •  専門家やそれに近い人と話し、相談して、受診する、あるいは受診を勧めるようにしましょう。受診を勧める際には、「そういうところに行ってみれば楽になるかもしれないよ」と言葉をかけるだけで、本人の受け止め方が全然違ってくるのです。
留意すること
  • 偏見を取り除く
  • プライバシーの保護に配慮する
    • 他の病気も同じ。病名を公表したりしては絶対にいけません。
  • 職場環境の改善・・・風通しのよい職場に。
    • 健康診断
    • 職員室の快適化
    • 教職員のための息抜きの場
    • 相談室  など
  • ストレスのためのセルフコントロール(4R)を心掛ける (「健康日本21」)
    Rest、 Refreshment、 Relaxation、 Recreation
おわりに
  • 私たちは、自然のいのちに生かされています。自然を感じられるゆとりを持ちましょう。自然を楽しみながら歩きましょう。
  • ストレスのない人はいません。ストレスと上手に付き合いながら、自分の健康は、自分で保持し増進していきましょう。
  • 健康こそ財産です。

 受講者の声
  • 教職員に精神疾患が多いことがわかった。ストレスを少しでも減らせるよう管理職として職場内の人間関係の改善、維持の大切さを痛感する。
  • メンタルヘルスについて考えを深めることができた。ストレス解消のための4Rを大事にしていきたいと思う。

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